大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和24年(を)358号 判決 1950年3月31日

被告人

小林政和

外一名

主文

本件控訴は孰れも之を棄却する。

理由

弁護人南出一雄の控訴趣意第一点について。

原審第二回公判調書を調査するに、昭和二十四年七月八日の公判期日において、裁判官は証人戸川次男の尋問を終つた後弁護人に対し、同証人を尋問する機会を與へた旨の記載がないので、右は刑事訴訟規則第四十四條第十三号に違反してゐることは所論の通りである。然し右のような法令違反は所謂絶対的控訴理由に該らないのであつて、その違反が判決に影響を及ぼす虞あるときに限り控訴の理由とすることができるのであるから右のような違法があつても、裁判官が事実上訴訟関係人に対し証人を尋問する機会を與へたことが窺知し得られる以上、その違法は判決に影響を及ぼさないこと明なるところ、前示調書を精査すれば、裁判官は檢察官の同証人に対する尋問終了後被告人に対し「証人に尋ねたいことはないか」と告げて尋問を促したのに対し、瀨古沢政男、小松昇等はないと答へたけれども、被告人小林政和は「あります」と答へて同証人に対し種々尋問してゐることが認められるのである。おもうに裁判長が証人を尋問する場合、訴訟関係人に対してこれ等の者を尋問する機会を與へなければならないとする趣旨は、訴訟関係人をして反対訊問権を行使せしめる趣旨に出でたものであるから、被告人や弁護人に対し反対尋問をする機会を全然與へなかつたとするならば、その違法は延いて判決に影響を及ぼすものと謂はなければならないであらうが、本件に在つては、被告人に対し反対尋問の機会を與へてゐることは前示の通りであるから、弁護人としても、証人を尋問する必要があつたとするならば、これを爲し得たであらうことは、前敍の情況より容易に推知し得るところであるから、これを以て控訴の理由と爲すことはできないのである。從つて原判決の破棄を求める論旨は到底採用することはできない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例